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hydrant house purport rife on sleepy

"roll over post rockers, so what new gazers"

kilk records, 2011

これだけ挑発的なタイトルを付けるだけの事はあると思う。以前、彼らの 同アルバムのプレビューや幾つかの楽曲を聴いて、実験性の高いロックであるのだが、大変ポップにまとまっている、というような事を僕は書いた。それは確かにそうであるのだが、それだけではこのアルバムの本質はまるで語れていない気がする。なんだろうか、彼らの音楽を聴いていて込み上げるこの純粋な感動は。こういう表現をするのはためらう所はあるのだが、純粋に音楽と戯れている人達に、天から何かが舞い降りてきている感じがある。そしてそれを聴いている僕は時に天にも昇るような気持ちになる。その意味ではこの挑発的なアルバムタイトルよりも、このふわふわとした髪型のケンタウロスが雲の上を歩くアルバムジャケットの方が、このアルバムの何たるかをより示していると思う。


hydrant house purport rife on sleepyは2006年結成されたバンドである。メンバーはsleepy it(Gt / Key / Machine)、金子祐二(Ba / Key / Gt)、金子泰介(Dr / Key / Machine)、yawn of sleepy(Vo / Gt / Key / Machine)の男性四人。ゲストとして青木裕(downy / unkie)、森大地(Aureole / kilk records主宰)、CuusheFerriLööfが参加している。尚、彼らの2ndアルバムは44組ものゲストを迎えているそうな。なるほど、沢山の人とセッションをして作り上げるのが、好きな人達なのかもしれない。そんな所と、その音楽性からして33RECORDを想起させるところがあるな、思って調べてみたら、どうやら彼らは、33RECORDにも深く関与もしているバンドのようだ。(関連記事)


音楽性としてはドラム、ベース、ギターといったロックの基本的な器楽編成で作られたトラックで、ディストーションのかけられた男性ヴォーカルが歌ったり、ラップしたり、様々な種類の女性ヴォーカルが入る、といった趣。そこに様々な音響処理やFX、シンセが加えられて、それらが楽曲に浮遊感や実験性を与えている。ハイライトの一つは三曲目"Rivals On Revival Feat.Cuushe"である。この一曲を聴くためにこのアルバムを手に取る価値はあるかもしれない、と思えるぐらい聴いていて鳥肌が立った。音楽的には他と同じく実験性のあるロックという感じなのだが、この曲にはそれに加え、すごく浮遊感があって、優しくて、聴いてるとなぜだが心が泣けてくるものがある。特にこの透明感のある女性ヴォーカル(Cuushe)の純粋な歌声が素晴らしく、聴いていると自分の心を雲の上まで持っていってくれる。

もう一つのハイライトは七曲目の"Love And Rain Feat.Ferri" になるかもしれない。インディーロック版のBoards of Canadaとも形容したくなるような浮遊感があり、それに少しノイズがかけられた音像の中で、純粋で素朴でセクシーな女性ヴォーカル(Ferri)が歌う。そしてこの曲の2:00あたりに入ってくるBoards of Canadaのようなチューニングが落とされた浮遊感のあるシンセにやられる。この二曲は聴いていて、正にこのジャケのような雲の上にいるような気分になれる二曲だ。


この二曲を含む前半の展開は日本のインディーロックバンドの中では、近頃味わってなかったぐらい良かったが、どうもアルバム後半はいまいちに思えた。その要因としてはこのディストーションがかった男性ヴォーカルがハマっている曲とそうでない曲があるというのが挙げられる。ハマっているときは、特に二曲目の"People Get Way"などでは独特でカッコイイなと思うのだが、たまになんだかハマってなかったり、少しチャラく感じたりする。僕は彼らの女性ヴォーカルが参加している曲はかなり好きなのだが、男性ヴォーカルの曲はそれらの曲と比べると、いまいちに思える事が多い。また実験性がある事はあるし、その実験性の天然さは聴いていてワクワクさせる所はあるのだが、期待していたより実験性は乏しいように思えた。そこは自分が耳に刺激的な音楽を聴きすぎている事もあるのかもしれない。

それでも自分がここに書いたようなポストロックやニューゲーザーと呼ばれるものより面白いし、これからも期待出来そうな天然のクリエイティビティーを感じる。33 RECORDを含め、ズレや実験性のあるインディーロック好きは気にかけておいて良い存在かもしれない。

Reviewer's Rating : 6.8 / 10.0

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